「あれ、、さっきが探してたわよ。」
「うそ?!」
最近よく言われるようになったこの言葉。
正式な騎士団になって忙しくなってに構っている時間なんてなくなったと思っていたのに、
最近のと言えば、仕事の合間を見つけては何かと との接触を図ろうとするのだ。
少し異常な位に。
「何かやらかしたの?」
「なんていうかその」
決してを避けているわけでは
「貴女、最近の事避けてない?」
「ぅえっ?!!」
あるかもしれない。
の反応に整った眉をしかめるのはと一緒に騎士団員になった、普段から特にと仲の良い少女。
こんな島では珍しいエルフの名前はポーラと言った。
のことだから、私の些細な心境の変化に気付いてるのかもしれない。
元からこういった事に疎い人間ではない。他人のちょっとした変化にも目敏く気付いてしまうのが という人物。
それが彼にとって幸か不幸か。
今回も例に漏れず、ましてやこの数年間で一番接する時間が多かったのがだったと思うし、今ではかけがえのない仲間だ。
だからこそ他の人の誰よりもまず敏感に感づかれるだろう。これは予感ではなく確信に近いもの。
に隠し事をする事自体無謀だったかも。)
はこっそり心の中でため息を零した。
と何かあったの?」
あなた達が喧嘩とか珍しいわね。疑心の眼差しを向けられ思わずたじろぐが、
美人に真剣な目で見つめられると緊張して目が反らせない、ちょっぴり小心者な自分が情けないなと思うだった。
「な、何かって、特に何もない、けど」
敢えて言うとしたらやっぱり自分の後ろめたいという感情だろうか。
心配してくれるには悪いけど、も引くわけにはいかない。
じっと見つめてくるポーラの視線に、責められているような気分になって小さくなる。
なんだか犯罪者になった気分だわ。やっぱり小心者の自分が情けなくなるだった。



そう言えば、何時に勘づかれたんだっけ。
いくら相手はとは言え、今回の決心はそう簡単にばれない筈だった。
それは未だ他の人達には勘づかれていない事が立証してくれている。
まるで心の中を覗かれているのではないかと疑心暗鬼になるほどの計画をことごとく邪魔してくる
隠し通せるわけないとは思っていたけどあまりに早すぎる。
そのきっかけはなんだったっけ…。











programma2-3 cambiamento - 急変 -









、行かないの?」

その言葉に驚いて、驚くに驚く
「私も行っていいの?」
「は?いいも何も何を…。」
質問の意味がわからない、と一瞬不満そうな顔をしたかと思うといつもの食えない表情に変わり
「何?来ないつもりだったんだ?のあの激励料理のおかげでこうして無事に帰ってこれたのに。
感謝してたんだけどな。タルやケネスも死にそうな位感激してたなあ」
「え?そうなの?別に行かないなんて行ってないでしょ。後から見に行くつもりだったし!」
「なら一緒に行けばいいじゃないか」
そう言って有無も言わさず強引に腕を引っ張るの背中を見て正気に返る。

もしかしなくても上手く嵌められた…?









そうして何故か騎士団員でもない達(主にメインはスノウだった)
と一緒に火入れの儀式に参加する事になり、はそれを一番恐れていたりした。
「後から見に行くつもりだった」という言葉は決して嘘ではなく、後でこっそりと皆の勇姿を物陰から見守るつもりだったのだ。
に着いていく=儀式の主役というべく松明を付けて回る仕事に付き合う、という構図を恐れていた。
そもそも目立つのは性分ではないし、ここを去ろうと決心した身として後ろめたい気分にもなったから。
建物の外に出て、そこかしこから激励の言葉を賭けてくる町の人々に笑顔で灯りを点すとスノウから少し距離を置いて歩いた。
二人が歩く度に暗闇が徐々に明るみを帯びていくのを見ると、神聖な気持ちになると共に何故か不安な気持ちがこみ上げてきて
町の人達と談笑する二人の隙をついてそっとその場を離れた。






その後の事は良く覚えていない。今日の為に、といつもより賑わいを見せる町の中を一人で物色しながら歩く。
気付くと、こうなるのを恐れていたんだよなぁ、と騒がしい町並みから少し外れた海岸へと辿りついた。
此処に来たのはなんとなくで、この間昼間に来たときと雰囲気がガラりと変わっていて、
まるで自分の心境と合致してるみたいだ、と苦笑する。夜の海は余所余所しい。冷たい空気は自分の感情の様に。
暗闇の中の海は飲み込まれてしまいそうで怖い。
周りは流石に人っ子一人見あたらず、そりゃあこんなお目出たい日にこんな所に来る酔狂な人間なんて泥棒か私ぐらいなものよね、
なんて思ったりしながら、相変わらず規則正しい波の音が、遠くから聞こえてくる祭りの喧騒にかき消されてしまわないように耳を凝らす。
は私がいなくなったのをとっくに気付いているんだろうな、そんで後で遭った時が怖いわ……)
気付いても、儀式を放り投げてくるわけにもいかないだろうし、彼にだってつき合いがあるだろう。
それはとなんかより遙かに長くて深いつき合いだ。

恐れていたのはこの決して埋める事のできないもの。
この溝は埋まらない。

彼らの手によって点される灯りを眩しいと思ってしまった。あの灯りは私に点る事はない。
皆の笑顔がどうしようもなく眩しいと思ってしまった。あの笑顔の中に私は入って行ってはいけない。
自分は去って行く人間だ。
そう思うと段々と明るくなって行く町で、一人暗闇に取り残されてしまったような気がして、
居たたまれなくなって逃げ出してきてしまったのだ。
何処かで花火が上がる音が聞こえる。
もう儀式もクライマックスなのだろう。一層賑わいを増していく町の様子を流れてくる風で感じながら、
きっとこのお祭り騒ぎを堪能しているだろう、すっかり顔なじみの彼らの楽しそうな姿を想像する。
その想像の中に自身はいない。多分これからもいない。
でも一人がいなくなっても、彼らの空間には何も違和感なんてないんだ。
スノウなんかはがいなくなって清々した!ぐらいに思っているかも、と考えると笑ってしまった。
「ちょっと卑屈になりすぎ!」
違和感なんてある筈がない。これからは自分がいなかった頃の生活に戻るだけ。
暫くはがいなくなった事を悲しんだりしてくれるかもしれない。淋しい、と思ってくれるかもしれない。
そうだったらいいな、それはあくまでも 自身の願望でしかないけれど。
「少なくとも私は悲しいし、淋しい」
皆はどう思ってくれるかわからないけど、自身は。いつの間にか、大切な存在になってしまっていたから。

「やっぱりちょっと卑屈かも……。」

「何が?」
「何がって……えぇっ?!!」
返される筈のない自分の呟きに第三者の声が聞こえたのは幻聴だろうか。幻聴だと思いたい。いや、これは幻聴だ。
必死に言い聞かせるが、恐る恐る声の方に視線を送れば

そこにいたのは言わずもがな
、その人だった。

これは幻覚だ。幻聴で幻覚だ。

そうじゃなかったら夢。

だと思いたい…。






                                                           2006.5.18
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